アラーキーの「ミューズ」の告発や、リーディングミュージアムなる制度の発表、東大での宇佐美圭司作品の廃棄など、政治同様にひどいニュースが多い印象の2018年。つい暗くなってしまうが、いい展覧会をたくさんみることができた(もちろん悪い展覧会やつまらない展覧会も…)。
浜田知明さんや藤戸竹喜さんが亡くなられたのはけっこうショックだった。流政之さんや山口勝弘さんも亡くなられた。
以下、見てよかった展覧会ベスト7。今年も独断と偏見で決める(並びは日付順で、この中には順位はない)。
・カオスラウンジ新芸術祭2017 市街劇 百五〇年の孤独 2017.12.28.〜2018.1.28.
・・・3度目にして最後のカオスラウンジ新芸術祭2017。私は1度目とこの3度目に訪れた。たしか2018年の最初に見た展示で、幸先のいいスタートだなと思った覚えがある。廃仏毀釈によって仏教が失われたしまった地域が深くリサーチされていて見ごたえがあった。来場者は3通の手紙に導かれることによって町をさ迷う。最初に見せられる戒名のない墓石はそれだけで強い存在感があった。新しく作られた寺院と作家のコラボレーション(襖絵や地獄絵など)は、震災以後、地域とアートの関わりが繰り返し問われている中で、幸福な出会いのひとつだったのかなと思った。最後にたどり着いたお堂はこれまで歩いてきた町が見渡せるような山の斜面にある。この芸術祭のリサーチの先駆者ともいえるある郷土史家の資料を偶然にみつけた場所でもあったという。そこには町に落ちていたアルミ缶から鋳造されたらしい新しい鐘や作りかけのような仏像が置かれていた。それらはささやかながら力強い再生や復興のようなものを象徴しているように思えた。
・アイヌ ネノ アン アイヌ 北海道開拓・開教の歴史から問われることー結城幸司の作品世界をとおして 2017.12.8.〜2018.1.31. 東本願寺接待所ギャラリー
・・・美術展というよりは東本願寺の布教啓蒙活動的な展示。まず宗教団体として過去の過ちを真摯に受け止め正していこうという姿勢に敬意を表したい。アイヌ民族への真宗の布教の過程における差別に関する資料が並ぶ一方で、アイヌ民族の版画家である結城幸司さんの作品を並べるセンスがいいなと思った。
(詳細→2018年1月の京都②(東本願寺ギャラリー展とシンポジウム、北海道開拓と開教、アイヌの関わり) - こたつ島ブログ)
・マイク・ケリー展 自由のための見世物小屋 1.8.〜3.31. ワタリウム美術館
・・・某映像祭で「Day is done」を見た知り合いは随分退屈だったと聞いていたので不安になって訪れたが、これは面白かった。展示の中心は学校の課外活動の様子を写した写真から想像され展開された映像インスタレーション作品。不鮮明な白黒写真が解釈され、(たぶん)まったく別のものに生まれ変わる様子は痛快だった。
・石川真生 大琉球写真絵巻 2.10. 〜3.4. 原爆の図 丸木美術館
・・・タイトルの通り、琉球王国から沖縄県となり、現在に至るまでの歴史をたどった写真展。過去にあった出来事を現在の沖縄の人が演じることで再現、その様を撮影している。ペリーに扮したりするのだが、必ずしもかっちりした仮装ではないのでどことなく可笑しい。フォトジェニックという言葉からは程遠い。コスプレしてふざけているように見える写真もないではない。そのなかで当然ながら現在進行形の基地問題なども取り扱われることになる。政治家が沖縄の海に投げ入れられた石の重しでつぶされたりする。
どういう写真かと問われてもなんとも説明しがたい。もちろん上記のような表面的な説明はできるのだが…。私は、なんとしてでもこれをやらなければいけなかった必然のようなものを感じた。写真家の作歴の必然?沖縄の写真史の?それとも日本の美術史の必然?それは分からない。美術家や写真家、芸術家は、どうしてもやらなければならない仕事がある。それに理由らしい理由はない。強いて言えば直観だろう。そういう仕事のように思えた。
・東京⇆沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村 2.24.〜4.15. 板橋区立美術館
・・・いつもコレクションをうまく使って素晴らしい展示をしている印象の板橋区立美術館。沖縄の美術家と東京のつながりを見せてくるとは予想外だった。また、藤田嗣治など沖縄を訪れた作家の作品も印象に残る。日本美術史への認識を更新させられた。
・池大雅 天衣無縫の旅の画家 4.7.〜5.20. 京都国立博物館
・・・名前はもちろん知っていたがほとんど作品をみたことがなく、大変勉強になった。絵が有名だが素人目に見ても書も達者だった(最初は書家として世に出たとか)。
・ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅 9.15.〜11.18. 町田市立国際版画美術館
・・・銅版画家の回顧展。旅行の記録をメモに書き留めるように絵や文字を描き、複数の版画を一つの画面にコラージュするような作例が多く、もともと版画をやっていた自分としては「この手があったか!」とかなり感心させられた。
その他は以下の通り。(※展覧会名は必ずしも正式名称ではありません)
・・・谷川俊太郎(オペラシティアートギャラリー)、池田龍雄(練馬区立美術館)、横山大観(東京国立近代美術館)、「光画」と新興写真(東京都写真美術館)、ヌード展(横浜美術館)、岡本神草(千葉市美術館)、熊倉涼子 + 永井天陽 「DI-VISION/0」(TAVGALLERY)、ゴードン・マッター・クラーク(東京国立近代美術館)、内藤正敏(東京都写真美術館)、琉球 美の宝庫(サントリー美術館)、「AUDIO ARCHTECTURE 音のアーキテクチャ展」(21_21 DESIGN SIGHT)、ブリジット・ライリー(川村記念美術館)、加茂昂 追体験の光景(原爆の図 丸木美術館)、増山士郎「Tokyo Landscape2020」(Art Center Ongoing)、村上友晴(目黒区立美術館)、ジャン=ポール・グード「In Goude we trust! 」(シャネルネクサスホール)、中村ケンゴ「モダン・ラヴァーズ」「JAPANS」(MEGUMI OGITA GALLERY)、磯村暖 LOVENOW(ユーカリオ)
…などが面白かった。
(中村ケンゴ MEGUMI OGITA GALLERY)
東京国立博物館では、今年は縄文展や「マルセルデュシャンと日本美術」が話題だった。いずれも展示されているモノ自体は最高だったのだが、キュレーションが良くないと思った。あまり練られてないというか、安直で鑑賞者をバカにするような展示だと感じた。担当者にもよるのだろうが、これからは東博にはキュレーションをあまり期待できないかもと思う。もったいない話だが…。
(セゾン美術館 入り口)
ゴールデンウィークに友人と一緒に軽井沢のセゾン美術館に行けたのは本当に良かった。今年行った中では一番と言っていいくらい素敵な美術館だった。アンケートに答えると小冊子がもらえるのも素敵。
今年は京都に展示を見に2回も行ったが、その他は展示のためにはあまり遠出はしなかった。
6月からは絵馬に関することをブログに書くようになり、山形に作品制作のための調査と絵馬を見るのを兼ねて旅行した。今後はもっと美術館やギャラリーに行かなくなって寺社仏閣を詣でるようになりそうだ。
今年の後半はグループ展を企画して、それに向けて動いていることが多くあまり展示は見なかった。全体的にも去年より見た展示は少なめだった。毎年思うことだが、もっと面白い展示をたくさん効率よく見たいものだ。それは結局は場数を踏むしかない。ゆくゆくは海外の展示もたくさん見たい。
(終)