こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

備忘録・2021年前半

 

 2021年前半の備忘録。昨年からの新型コロナウイルス蔓延は収束が見えず、反対の声も上がる中オリンピック開催とそれにまつわる数多の不祥事に加え、アート関連ではアーツ前橋の作品紛失問題、アートの現場でのハラスメント被害告発、「あいトリ」きっかけの無茶苦茶なリコール署名不正など、どうしようもないニュースが多かった印象の2021年上半期を振り返ります。

 展示をあまり見ていない(40数か所)割には特に言及したい展示もそれなりにあり、展示の面白さの打率としては悪くないかもしれない。時々演劇や映画も見たが数か所だ。寺社に絵馬を見に行ったり絵馬市で手に取ることもできてよかった。

 

 

 
・1月

 
 1月に入ってすぐ緊急事態宣言の発令。美術館や博物館にも「収容率50パーセント」が呼びかけられた(が、それはどれだけ実態に即した呼びかけなのか疑問がある)。12日には作家の半藤一利さんの訃報。アメリカではこの月にトランプ元大統領支持者による議会乱入事件とバイデン大統領の誕生があった。

 いわゆる「コロナ禍」以後ではじめて高速バスに乗り、青森県立美術館へ行ったがあいにく豪雪に遭ってしまった(この展示については2度に分けて感想を書いた。以下にリンク貼りました)。翌日は青森市内から出られなかったので歴史ある善知鳥神社でおみくじを引いたり暖かいリンゴジュースを飲んだり雪を漕いで図書館へ行ったりした。

 Gallery Nayuta「白濱雅也絵本原画展 スターとゴールド」は、知人の展示なので内輪っぽくなってしまうのだが、それを差し引いても、作家自身が酪農に従事した経験と廃材を支持体として再利用することがうまく組み合わされていて、絵としての魅力も十分だったと感じた。

 

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青森県立美術館「生誕110周年記念 阿部合成展 修羅をこえて~「愛」の画家」

 

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・Gallery Nayuta「白濱雅也絵本原画展 スターとゴールド」

 

 

 

7日

青森県立美術館「生誕110周年記念 阿部合成展 修羅をこえて~「愛」の画家」

展示の感想① 展示の感想②

9日

神奈川県民ホール「大山エンリコイサム 夜光雲」

17日

東慚寺 絵馬市

27日

√K Contemporary「梅津庸一監修 絵画の見かた reprise」

30日

泉岳寺

Café GODARD gallery カフェ・ゴダール・ギャラリー「ダダカンの『殺すな』展 祝 糸井貫二氏100歳記念!!」

Gallery Nayuta「白濱雅也絵本原画展 スターとゴールド」

銀座 蔦屋書店アートウォール・ギャラリー「弓指寛治 個展 マジック・マンチュリア(導入)」

ユーカリ「楊博個展“Fly me to the moon” sequence1:Nightngale and Rose」

  

 

 

・2月

 

 15日には「あいトリ」をめぐる大村愛知県知事へのリコール署名不正が愛知県選管に刑事告発されることに。26日からは昨年から騒動が続くアーツ前橋が収蔵品点検のため3ヶ月の休館に入った。新型コロナウイルス関連ではやっと医療従事者のワクチン接種がはじまった。菅首相長男の総務省幹部接待問題、ミャンマーの軍事クーデターも。展示はほとんど見ず、2月末から京都へ。開館後初めて京セラ美術館へ行き、KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 SPRINGのプログラムを見られたのはよかった。 

 特に「イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示」は、見づらいと感じる部分はありつつも、「人間の展示」に関する絵葉書を中心とした資料の物量に圧倒された。

 話題の京セラ美術館新館東山キューブ「平成美術:うたかたと瓦礫デブリ 1989–2019」は、コレクティブの活動に着眼した点は非常に興味深く、2000年代前半までに活動した作家たちはそもそもよく知らなかったので面白かったし図録もデザインが凝っていてつい購入してしまった。ただ、出品者のうちカオス*ラウンジに関しては、展示の内容としても展示と直接関係ない批判に対する応答としても非常に中途半端かつ不十分で、企画・監修の椹木野衣氏や美術館の担当学芸員に対し不信感を抱かせるものであった。例えば同展示ウェブサイトには「本展出品作家として予定していたカオス*ラウンジの組織内トラブルを理由として、同団体の作品展示を取り止めました。一方で、平成年間における同団体の活動実績を踏まえて、歴史的事実を確認する意味で、資料2点を展示したところであり、同団体に係る展示が作品展示ではなく、資料展示であったことを改めて明らかにさせていただきます。なお、作品展示と資料展示の区別が明確でなかったという御指摘が複数あったことについては、本展の展示手法に係る問題として真摯に受け止めます」とあるが、この文章では根本的に組織内トラブルがあるコレクティブの作品展示がなぜダメで資料展示がいいのか説明できておらず、資料を「歴史的事実」を指摘するものとして定義づけただけである。その「歴史的事実」にしても、実際の展示物がカオス*ラウンジのステートメントを含んでいたことを考慮すると、どうなのか。ステートメントをある視点で企画された美術展において展示することが、はたして歴史的事実を提示したものであると言い切ってよいのか、私には疑問がある(念のため付け加えておくと、私はカオス*ラウンジの展示をすべきであるともしないべきであるとも言いたいのではなく、価値判断の根拠があいまいである点を問題視したい)。

 

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・京都伝統産業ミュージアム 「小原真史 イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示」

 

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・京セラ美術館「平成美術:うたかたと瓦礫デブリ」カオス*ラウンジ 展示箇所

 

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・haku「IDEAL COPY「Channel:Copyleft」」
 

 

 

14日

(演劇)あうるすぽっとチェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』東京公演

19日

妙法寺上岡馬頭観音 絵馬市

27日

瀧尾神社

京都伝統産業ミュージアム 企画展示室「小原真史 イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示」(KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 SPRING)

御霊神社

28日

清水寺

鳥辺山妙見堂(再訪)

京都市京セラ美術館新館東山キューブ「平成美術:うたかたと瓦礫デブリ 1989–2019

ロームシアター京都nノースホール「垣尾優 それから」(KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 SPRING)

haku「IDEAL COPY「Channel:Copyleft」

 

 

 
・ 3月

  

 1日から2023年度まで横浜美術館が長期休館に入った。また篠田桃紅、田中邦衛の訃報が印象深い。緊急事態宣言が一時全面解除された。11日には東日本大震災から10年を迎えた。スエズ運河のコンテナ座礁、のちに実刑判決を受けた河合元法相の議員辞職などもあった。12日には日本テレビの朝の情報番組でアイヌ民族に対する差別的な表現が放送される事件があった。

 アートフェア東京2021は事前オンライン予約のみ、チケットは4000円と高額だったが賑わっていて感染症蔓延の影響は感じられなかった。昨年中止になった分、購買意欲がむしろ増していたのかもしれない。

 「“風景の再来 vol.1”渡辺兼人+笠間悠貴」では、渡辺は昨年春の人が居なくなった街の小さいサイズの作品を多く並べ、企画者でもある笠間はインドの雄大な山岳地帯で「風」を捉えようとした一辺1メートルはあろうかというプリントを展示していた。各部屋は被写体やプリントの大きさなど明快な対比になっているが、いわゆる風景写真によって目に見えない何かを写しとろうという問題意識が通底していた点、知人の展示ではあることを差し引いても面白かった。

  演劇では名取事務所「鈴木大拙と東京ブギウギ」を見た。同名の書籍(山田奨治 『東京ブギウギと鈴木大拙』株式会社人文書院 、2015年)を元にしており世界的な禅の研究者である大拙の息子・鈴木アラン勝との隠されてきた親子関係を、大拙の思想と東京ブギウギの世界観の比較と重ねて描く。

 見逃した展示としては、カスヤの森現代美術館の「生誕100年記念 ヨーゼフ・ボイス 展」(3月21日まで)に行けなかったのが悔やまれる。

  

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東京国際フォーラムアートフェア東京2021」

 

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・「2021年宇宙の旅 モノリス-ウイルスとしての記憶、そしてニュー・ダーク・エイジの彼方へ」より、赤瀬川原平《宇宙の罐詰》(1964/1994)

 

 

 

1日

魔氣神社

生身天満宮

郷土玩具平田

伏見人形丹嘉

伏水酒蔵小路
12日

女子美術大学卒業修了制作展 鈴木萌夏「レントゲン藝術研究所とは何かー資料アーカイブの実践とその考察

(演劇)小劇場B1「名取事務所公演 鈴木大拙と東京ブギウギ

20日

東京国際フォーラム ホールE/ロビーギャラリー「アートフェア東京2021

小山登美夫ギャラリー倉田悟展「Ba/u/cker La/u/cker」(バッカー・ラッカー)
24日

太田記念美術館笠松紫浪ー最後の新版画

ジャイル「2021年宇宙の旅 モノリス-ウイルスとしての記憶、そしてニュー・ダーク・エイジの彼方へ

photographers gallery「渡辺兼人 + 笠間​悠貴 “風景の再来 vol.1”

  

 

 
・4月


 1日付で文化庁長官が作曲家で元JASRAC会長の都倉俊一になった。原発処理水の海洋放出決定、熊本地震5年が経った。21日には展覧会の共同企画や巡回展開催を担う美術館連絡協議会が事務局業務を2022年度から停止することが明らかになった。新型コロナウイルス関連では25日から、昨年4月、今年1月に続き3度目の緊急事態宣言が発令され都立美術館は休館、1000平米以下の美術館・博物館については休業協力が要請された。また国立新美術館で5月10日まで開催が予定されていた「佐藤可士和展」が、緊急事態宣言の影響で4月24日をもって閉幕となり見逃してしまった。とても残念だ。

 映画では、シアターイメージフォーラム で「狼を探して」と「AGANAI 地下鉄サリン事件と私」を続けて見た。

 「狼~」は大企業にテロ行為を行った「東アジア反日武装戦線」をテーマとしている。この「狼」とは「東アジア~」の一部隊の名で、他に「大地の牙」「さそり」がある。いずれも組織的に編成されたのではなく「狼」の活動に呼応する形で現れた。ここでいう反日とは「反・日本の帝国主義」という意味であり、彼らは戦前から奴隷的に東アジア各地で搾取を続けた日本の財閥系企業や大手ゼネコンに対しテロで社会正義を実現しようとした。しかし「東アジア~」のメンバーは当然警察に追われた。このドキュメンタリーで扱われているのはそのメンバーの、服役、自殺、釈放、逃亡、獄死というそれぞれの歩みと関係者の証言である。「東アジア~」とその周辺を彼らに近い視点で実直に撮影しており、近代日本を考える上で重要な記録だと思った。
 「AGANAI~」は言うなればロードムービー的な映画で、地下鉄サリン事件の被害者であるさかはらあつし監督と、オウム真理教の後継団体「アレフ」の広報部長である荒木浩氏が旅に出る。実はふたりとも丹波地方出身で同じ時期に京都大学に在籍していた。二人のおっさんが親しげに会話しながら、一緒に食事をし、川で水切りをして遊び、ひとつのイヤホンをそれぞれ片耳に着けて音楽を聴く。これはいったい何を見せられているんだ?という気持ちにもならなくもない(笑)。そういうシーンも挟みつつ、さかはらは教団や信者のあり方に率直に疑問をぶつけ教義に反することすら勧める。まるで荒木の良心に訴えかけるように。映画のラスト、地下鉄サリン事件の慰霊行事にさかはらと共に参加した荒木はなんとも微妙な態度で切れが悪く、だからこそリアルで印象的だった。

 テロの加害者をクローズアップした映画と、被害者が監督である映画の 2本を同時に見られるというのが面白かった。

 タグチファインアート「岩名泰岳 みんなでこわしたもの」では、故郷である三重県伊賀市島ヶ原を拠点に活動し、島ヶ原村民芸術「蜜ノ木」というグループを結成している岩名泰岳さんが、昨年村から出られず見て歩いた廃屋や墓跡村の風景元に制作された絵画が展示されていた。タイトルの「みんなでこわしたもの」は、世界規模での過度な移動がもたらした新型ウイルスによって壊された従来の世界のことであり、社会的な事情で衰退していく集落を表しているとも受けとれる。そこから私は作家の物事に対する微妙な距離感を感じた。例えば、「壊す」という言葉を平仮名で柔らかく表していることや、衰退する村の風景を落ち着いた色味で少しずつ違う連作として咀嚼しようとすることにそれは現れているのではないかと感じた。

 

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・こどもの国雪印牧場

 

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・WALLA 「嘔吐学vol.2 川田龍 + 北林加奈子 greenery efficacy」

 

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・タグチファインアート「岩名泰岳 みんなでこわしたもの」

 

 

 
10日

(映画)シアターイメージフォーラム狼を探して

シアターイメージフォーラムAGANAI 地下鉄サリン事件と私

ユミコチバアソシエイツ「渡辺えつこ x 母袋俊也  Gegenüberstellung / confrontation 対置」

17日

(映画)東京都写真美術館「瞽女 GOZE」

22日

国立ハンセン病資料館「『青い芽』の版画展 ―多磨全生園の中学生が彫った「日常」の風景―

武蔵野美術大学美術館「オムニスカルプチャーズー彫刻となる場所

WALLA 「嘔吐学vol.2 川田龍 + 北林加奈子 greenery efficacy

24日

こどもの国雪印牧場

タグチファインアート「岩名泰岳 みんなでこわしたもの

  

 

 

・5月

  

 新型コロナウイルス関連では緊急事態宣言が7日に延長され都立の美術館・博物館も引き続き休館を継続、12日からの再開を発表していた国立美術館国立博物館も都の反発を受け一転して休館継続となるなど混乱が見られた。入管法改正案の廃案、署名偽造容疑、愛知県知事リコールで事務局長逮捕、高橋内閣参与の引責辞任など政治は相変わらず悪い意味で話題に事欠かなかった。テニスの大坂なおみ選手の会見見合わせによってマスコミの質が話題にもなった。
 24日から旧原美術館の建物の解体がはじまった。26日には北海道と北東北の縄文遺跡群が世界遺産へ登録するよう勧告されるという嬉しいニュースもあった。 
 映画館に関しては、26日には映画製作配給大手4社からなる一般社団法人日本映画製作者連盟が映画館の再開を要望する声明文を発表したこともあってか、28日には東京都は6月20日までの再延長が決定した緊急事態宣言下において博物館に加え映画館も同様に施設利用の規制を緩和し時短要請へと切り替えると発表した。また「アップリンク渋谷」が5月20日に閉館した。「コロナ禍」の影響が大きいことに加え、浅井代表による従業員へのパワハラ問題で客足が遠のいたこともあるのではないかと私は思っている。

 24日には浮世絵師で鳥居派九代目の鳥居清光、27日には絵本作家エリック・カールの訃報があった。

 江東区大島「プライベイト」の二人展「魂の影」は安井海洋さん企画。笹山直規さんの作品は一見おどろおどろしいのだけど民家を活かしてそれぞれの作品に合った場所に展示していた。素朴に木版の彫りが味わい深かった。松元悠さんの作品は一見どう読み解くべきか戸惑うのだけど、事件のリサーチ?の生々しい手書きの記録を読んでから見ると改めてゾッとしたり。作家さん2人とも版画なので、下絵、製版、刷りなど図像を制作過程で反復せざるを得ないわけで、モチーフに対する執念のなせる制作なのかな。2人の作家の良いコントラストを感じた。

 新宿ニコンサロンで見た「長沢慎一郎 THE Bonin I slanders」は、1830年小笠原諸島に住み始めた欧米人と太平洋諸島民の二十数人の末裔「Bonin Islanders/小笠原人」をテーマとした写真。その後日本領となった小笠原は第二次大戦中は全島民強制疎開、戦後は米軍が統治し1968年に日本に返還された。現在の住民の多くは返還後の移住者。
日本人でも欧米人でもない小笠原人の生活の記録。興味深かった。

 

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・新宿眼科画廊「もちもち脳みそクラブ」

 

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プライベイト「笹山直規・松元悠 魂の影」

 

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・ANB Tokyo 「中園孔二 個展 すべての面がこっちを向いている」

 

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・六本木蔦屋書店「康夏奈 作品展 100 miles climbing」
 

 

 
7日

新宿眼科画廊「もちもち脳みそクラブ
10日

ギャラリークトー「菅原彩美 近作展 目覚める星が聞こえる

プライベイト「笹山直規・松元悠 魂の影

20日

MAHO KUBOTA GALLERY 「AKI INOMATA 貨幣の記憶

ANB Tokyo 「中園孔二 個展 すべての面がこっちを向いている

六本木蔦屋書店「康夏奈 作品展 100 miles climbing

新宿ニコンサロン「長沢慎一郎 THE Bonin I slanders

(落語)六連会 桂竹紋、三遊亭吉馬、雷門音助

21日

KATA(LIQUIDROOM)「奈落で水を飲む」

22日

ギャラリーQ 「李 晶玉 展  L’EMPIRE DES SIGNES

ギャラリー58 「アヴァンギャルド・ポスター・コレクション

銀座たくみ「谷道和博 吹きガラス展
24日

富士嶽神社

青梅神社

日限地蔵尊

 29日

(演劇)紀伊国屋サザンシアター「こまつ座第136回公演 父と暮らせば

 


・6月

 

 4月25日から臨時休館によって中断されていた鳥獣戯画展の再開と会期延長、芸術文化振興会の映画『宮本から君へ』助成金不交付処分の取り消し訴訟の原告勝訴、菅原一秀経済産業大臣の辞職(のち公職選挙法違反の罪で略式起訴、罰金40万円、公民権停止3年の略式命令)などがあった。

 SOMPO美術館「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」に行った。この美術館に行くのは、実は2012年のアンソール展以来でもちろん改装してからは初めて。それほど点数は多くなく画業の全貌が見られるというほどではないが、個別の作品はいいものが来ていると感じた。絵が手前にせり出す珍しい額も当時のものっぽかった。全体としては、少しだけ「デ・ステイル」のメンバーの紹介やカタログの展示を通した日本のモンドリアン受容についても触れられていて正統派の回顧展という感じで、モンドリアンっぽい柄のスカートや着物を着ているお客さんがちらほらいたのはこの展示ならではだったのではないか。

 TOH「MES 『DISTANCE OFRESISTANCE/抵抗の距離』」は、クシシュトフ・ヴォディチコを彷彿とさせる方法論に、クラブのパフォーマンスからきているらしいレーザーライトが導入されて、「クソみたいな国家にゲームオーバーを宣告するような展示」といえばいいのか。公共的空間への介入のやり方がかっこよく、展示も什器が凝っていた。

 POETIC SCAPE 「野村浩|101 EYES' GLASSES Paintings」は、目がついたショットグラスを発注してから実験的に描き始めた101枚の絵を展示。この目は蝶の羽の模様のように何かへの擬態を示しているらしい。つまりこの連作は絵に擬態しているのだが、ではそもそも絵とは何か?私たちがこの作品やショットグラスから感じる眼差しは目によるそれではなく実はただの楕円形の模様がもたらしているかもしれない。その模様の在り方はキャンバスに塗られたただの絵の具である絵とも似ている。作家さんが写真作品を制作されてきた経緯もあるのか、絵と微妙な距離感を保ちながら絵の根底を問うているような展示だった。

 26日は土曜会#17に参加。土曜会は美術の理論と実践について探求したい人たちのコミュニティとして勉強会を中心に活動しており、私は以前第12回でも発表したことがある。今回は4本のレクチャーが行われた。
 じょいともさんは「地図と風景」と題し、風景画の先祖(と先祖返り)として地図との関わりを論じる。大抵、風景画は人物画などの背景から独立したと論じられるが、眼前にある光景の連なりとして発生した地図の発展の中に風景画を見出す視点は私にとって新鮮だった。ルネサンス期を愛玩される風景画の起点に置いていたが、近現代の風景画がプリミティブな地図のような風景画に先祖返りするという説明を合わせると、遠近法との関わりを併せて考えを進めてみて欲しいと感じた。また、同様の視点から東洋・日本の風景画を論じる可能性も感じた。
 石原七生さんは「描き集める/掻き集める」と題し、ご自身の制作過程について順を追って説明していた。自分の制作でもかなり参考になりそうな内容だった。タイトルやコンセプト文を書いた上で絵を描いていくのは制作のルーティンの中で効率の面でも作品の完成度を上げる面でも非常に合理的だと感じたし、制作者でなくとも作品とタイトルとの関わりのひとつとして興味深かったのではないか。作品ごとの資料のファイルわけ等真似したいと思った。

 友杉宣大さんは「画集が絵本になる瞬間」と題し、英語が読めなかった頃に絵本のようにピカソの画集を眺めた経験から、絵本における絵がいかに物語ることができるかを説明、自作に活かした経過についてのお話していた。絵本の絵だけ見ていると文の意味に齟齬が生まれる場合もあるのではないかと質問があったが、全体のストーリーを通して見ると矛盾が生じることは少ないとのこと。私たちはビジュアルイメージの物語る力を過小評価しているのかもしれないと感じた。
 私のレクチャーは、「塔を下から組む『北海道百年記念塔展』の顛末」と題し、2018年からテーマにしてきた北海道百年記念塔を振り返ろうとしたもののまとまらず。退屈な話を聴いてくださった皆様には感謝したい。それでも私の目を通しているという制約はあるものの個別の作家・作品の要点はなんとか伝えられたか……。展示記録冊子もご紹介できてよかった。

 

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・BUoY Cafe & Bar「女が5人集まれば皿が割れる」

 

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千葉市美術館「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」

 

 
3日 

BUoY Cafe & Bar「女が5人集まれば皿が割れる

5日

SOMOPO美術館「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて

12日

ギャラリー小柳「still life 静物」

加島美術「堀江栞個展『声よりも近い位置』

TOH 「MES DISTANCE OF RESISTANCE/抵抗の距離

19日

武蔵野美術大学美術館「膠を旅する
26日

POETIC SCAPE 「野村浩|101 EYES' GLASSES Paintings

galleryαM 「約束の凝集 vol.4 荒木悠

土曜会#17

29日 

宝蔵院

千葉市美術館「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」

  

 

  

2021年後半は、質、量ともに充実した展覧会鑑賞をしたいし、もう少し映画や演劇の比率も増やしていければ言うことはないのだが。

 

(終)