こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

天塩川日記⑥

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(埋もれたシカの角)

 

 の続き。「アートヴィレッジ恩根内」で10日間の滞在制作をした記録、その6日目です。

 

 

 

2019.5.6.

 

 

 

・恩根内散策

  

 滞在6日目。朝起きて携帯を見ると大友さんから「腰痛のため午前は休みにしたい」と連絡が入っていた。やはり連日の移動と撮影の疲れがたまってきているのだろう。心配だ。寝ているのが一番楽だ、とのことだった。ちょうど滞在も折り返し地点を過ぎた。小休憩をとるべき時期なのかもしれない。僕も寝ていたい気持ちだったがあまり制作が進んでいないこともあり、恩根内の徒歩圏内でのんびり絵を描くことにした。8時半ころ出発。

  

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 (カラフルな牛)

 

 携帯で音楽を聴きながらぶらぶら歩く。5月2日にも訪れた恩根内大橋が見える天塩川沿いにもう一度向かった。前に描いたときはまだあまり絵の具を使い慣れず色が濁って酷い絵になってしまったので、リベンジした。一度描いたことがある場所は描きやすい。先日の絵には描き込んでいた対岸の雪は溶けてなくなっていた。

  

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天塩川沿いにて)

 

 11時過ぎに一度アートヴィレッジに戻って休憩、再度天塩川沿いを歩いてみる。恩根内大橋を越え、川のカーブ近くで下流の方を向いて一枚絵を描いた。このあたりには天塩川の由来となった「テッシ」があると聞いていたのだが見つからない。

 

 14時半頃にアートヴィレッジに戻って無事に復活した大友さんとケーキを食べた。今日は近場の美深町内を回ってみることにした。

 

 

 

・美深散策

 

 まず、恩根内駅に来る途中に車窓から見えた天塩川のダイナミックなカーブを絵に描きたいと思い紋穂内駅付近まで行ってみた。だが川沿いにはなかなか良い場所が見つからない。

 

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(この先で天塩川がカーブしているはず・・・)

 

 近くに改装したばかりらしい石造りの家があった。二棟が渡り廊下で繋がりシンプルでおしゃれな看板が出ている。牧草地や畑ばかりの中では新築はどうしても目立つ。しかし元あった家を活かしているせいか風景の中では意外に馴染んでいるようにも見える。家の中から人が出てきたのでお話しすると、ここは近いうちに開業するホテルらしかった。図書室もあるそうで居心地が良さそうだ。

 

 美深の市街へ向かう。

 美深と言えば日本を代表する写真家の一人である深瀬昌久(1934~2012)の出身地であり生家の深瀬写真館があった。その話が大友さんの口から出るまで恥ずかしながら深瀬の出身地は東川町だと思っていた。深瀬写真館はかなり大きな建物だったらしい。検索すると教会や本屋の近くにあったという情報が得られる。それらしい空き地はあるものの、その痕跡はいまはどこにもない。

 

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 その後「文化会館COM100」という生涯学習を目的とした複合施設へ行った。ここに郷土資料室や図書室もある。

 まず郷土資料室を見る。予想外に立派だ。剥製を用いて動植物について解説する原寸大のジオラマがあり、大きな黒曜石の石器や土器があり、アイヌ文化の紹介があり、町の農業、林業、木材加工、でんぷん加工など各種産業の説明があり、といった具合だ。町の年表は松浦武四郎からはじまっていた。「天塩日誌」を紹介するコーナーは昨年のいわゆる「北海道命名150年」に合わせて作ったらしく新しかった。また、昭和20年7月に戦災帰農開拓者として入植し10年ほどで東京に戻った大島駒蔵という日展系の彫刻家の作品がいくつかあった。深瀬昌久に関する言及はなかった。

 

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 図書室で郷土誌をぱらぱらめくっていると、上野山清貢が若いころ代用教員として美深で務めていたことなどを見つけた。閉館の17時までいた。

 

 

 

天塩川温泉

 

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ミズバショウの群生地)

 

 一度アートヴィレッジに戻った。連日の疲れを癒そうと音威子府天塩川温泉へ行くことにする。天塩川温泉駅のすぐ近くの湿地ではおびただしい数のミズバショウが生えていたのを見た。

 まだ少し明るかったので温泉に入る前にあたりを少し散策した。畑ばかりだ。大きなため池のようなくぼ地があった。メイノ川という小川が天塩川に合流していた。

 その近くで大友さんがシカの角を見つけ、遠くから僕に声をかけて譲ってくれた。いままでシカの角を拾ったことはなかったのでとても嬉しかった。これも天塩川の恵みだと言っていいかもしれない。大事に持ち帰った。

 

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天塩川温泉)

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(シカの剥製)

 

 18時半頃に天塩川温泉へ。浴場へ向かう途中にあったのは角のないシカの剥製だった。ふと、さっき拾った角はこのシカが落とした角だったのではないか、という気分になって、不思議な気持ちになった。

 露天風呂からは天塩川が見える。といっても僕は目が悪すぎてほとんどわからない。大友さんに訊ねて確認しただけだ。温泉もまた天塩川の恵みと言えるだろうか。

 温泉から出るとすっかり日は落ちて真っ暗だった。恩根内に戻ろうとするも景色が変わっていて道がわからず行き過ぎてしまった。

 

 夜ご飯に先日Nさんにもらった魚を大友さんと一緒に食べた。

 

 23時前に就寝。

 

 

 

 ⑦に続く。