こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

ヨコハマトリエンナーレ2017の個人的感想①

 

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 「ヨコハマトリエンナーレ2017-島と星座とガラパゴスー」(以下横トリ)に行った。同時開催の「BankARTLifeV 観光」や「黄金町バザール2017」の一部も見てきた。横浜には何度も来ているが、トリエンナーレ鑑賞は今回が初めて。

 

 「島と星座とガラパゴス」というテーマについて考えたり、札幌国際芸術祭のテーマにも出てくる「星座」という単語についての比較や、奥能登国際芸術祭など他の芸術祭との相違について考えたりなどしてみたいが、なかなか時間もないし手に負えない。

 自分はつくづく一言居士なのだと思う。

 忘れないうちにとりあえず印象に残った作品だけでも感想を書いておきたい。

 

 

 

 

 高島平駅から外へ出る途中、竹橋駅のように壁にシールが貼られていたのを見た。これはトリエンナーレの作品でもなんでもない。補修する箇所を示しているものらしい。

 

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 まず横浜美術館へ。屋外にもたくさん作品があった。横トリでは各作家やグループのスペースそれぞれに、個展やグループ展のようにタイトルがつけられていたのが特徴的だった。

 

 

・ミスター

 はじめの方にあったミスター(Mr.)の作品が良かった。展示全体のタイトルは「ごめんなさい」。

 

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 ミスター 展示の様子

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 これは柱の高い位置についていた。クッション?

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 ドローイングに山田うどんが!!

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 ミスターさんの作品は高橋コレクションなどで数点見ていたが、たくさん見るのは初めて。参加理由は、日本独自の進化を遂げた「ガラパゴス」なオタクカルチャーを作品化しているから、らしい。なんか納得できるようなできないような・・・。テーマとの絡みは別として、とても良かった。ちゃんと絵を描いている。うまく説明できないが、とにかくドローイングの一枚でも欲しくなった。ミスターさんの作品をグッズ化したものが少ないのが解せない。

 

 

 

 

・ ケイティ・パターソン

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 ケイティ・パターソン 「すべての死んだ星」

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 ケイティ・パターソン 「化石のネックレス」

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 ケイティ・パターソン 展示の様子

 

 

 

 「化石のネックレス」は進化の過程に沿って繋がれた170個の化石からできたネックレス。化石と言えば、生き物が生きていた当時の姿を復元するもとのもので、どれだけきれいに残っているかばかり気にしてしまうが、そもそも化石は石なのであり、大胆にも丸く加工し、生き物の進化の歴史を凝縮して見せたのはささやかな展示との落差が圧巻。「すべての死んだ星」は過去に観測された超新星の天球図。分かりにくい表現であり、ただの図示だがネックレスとともに見せられるとハッとする。

 

 

 

 

・ロブ・プルイット

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 ロブ・プルイット 展示の様子

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ロブ・プルイット 「オバマ・ペインティング」

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オバマ・ペインティング」部分

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ロブ・プルイット 「スタジオ・カレンダー」

 

 

 

 作品としてオークションを開催していたロブ・プルイット。『スタジオ・カレンダー』はついつい見入ってしまい、自分の知っている人物を見つけて喜んだりでき面白いのだが、それより『オバマ・ペインティング』が印象深かった。日本で感じるよりずっと、アメリカにとってオバマという大統領の存在は重大な出来事だったのだろうと想像する。

 

 

 

・ザ・プロペラ・グループ

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 ザ・プロペラ・グループ 左から「映画『タイタニック』のジャック・ドーソンに扮するレーニン」「映画『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』のフランク・ウィーラーに扮するレーニン」「映画『インセプション』のコブに扮するレーニン」

 

 

 

 かつてロシアで掲げられていたレーニン像に加筆したものだろうか。ユーモアが感じられ、まぁ悪い作品ではないと思う。それより、これがもし毛沢東だったら、もし昭和天皇だったら、などと考えてみたりもできる。そういえば、小泉明郎の「空気」という作品もあった。

 

 

 

畠山直哉

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 畠山直哉 展示の様子

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 畠山直哉 「テリル」より20点のうち

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畠山直哉 「テリル」より20点のうち

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 畠山直哉 「陸全高田市高田町 2012年6月23日」 部分

 

 

 

 畠山さんの「テリル」は北フランスで撮影されたらしいが、私にはどこか北海道の景色に似ていると感じられ妙に懐かしかった。立坑のある風景など北海道のあちこちで見られる。陸全高田のパノラマ写真もおもしろい展示。 

 

 

 

・マウリツィオ・カテラン

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 マウリツィオ・カテラン 「スペルミニ」

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 ここ以外にも作家本人の人形を高い位置からつりさげた作品もあった。いわゆる「インスタ映え」する作品の一つだろう。この作品については、写真を撮るといっぱい顔認証されるのが妙に可笑しかった。

  

 

 

・木下晋

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 木下晋 「合唱図・懺悔」

 

 

 

 木下晋さんの作品も何度も本では目にしていたが現物を見るのはたぶん初めて。昨年、瀬戸内の大島(ハンセン病の療養所がある島、レポート⇒香川日記③ 瀬戸内国際芸術祭2016 大島 - こたつ島ブログ)に行ったせいもあり、今回特に見ることができてよかった作品のひとつ。写真だとあまり分からないが、これ実は見上げるほど大きいのだ。

 

 

 

 ・ハイネ(サム・デュラントのスペース内)

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 伝 ペーター・B・W・ハイネ 「ペルリ提督横浜上陸の図」

 

 

 

 サム・デュラントのペリー来航をモチーフにした作品の横に、ハイネの油絵が飾られるのはさすがといったところ。この絵は教科書で目にした人も多かろう。でも一緒に川上澄夫の南蛮船の版画まで飾るのは行き過ぎのような気がしないでもない。微妙に意味合いがずれているように感じる。

  

  

  

 ・マーク・フスティ二アーニ

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 マーク・フスティ二アーニ 「トンネル」

 

 鏡を使ったトリックで奥行があるように見えるのだろうが、とても迫力がある。気が付いたら写真を撮ってしまっている。

 

 

 

・ザオ・ザオ

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 ザオ・ザオ 「プロジェクト・タクラマカン」(インスタレーションの一部)

 

 

 

 民族問題の舞台となる砂漠のど真ん中にわざわざ冷蔵庫を運んでビールを飲む「プロジェクト・タクラマカン」は、見るからに大掛かりな過程とビールを飲むという落差は馬鹿馬鹿しさの域を超えて凄みが感じられた。これがいい作品なのかただの無駄遣いなのかはちょっと分からない。それは紙一重の差なのかもしれない。

 

 

 

 横浜美術館会場の終盤には、公開対話シリーズ「ヨコハマラウンド」の動画などがあった。その他、why is ~ で検索した世界の国々の検索結果一覧のパネルや、ずっと見たかった風間サチコによる「ぼんやり階級ハンコ」(いくつかは実際に捺して持ち帰ることができる)が印象に残っている。

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 風間サチコ 「ぼんやり階級ハンコ」 

 

 

 同じ日には横浜開港記念会館の柳幸典の展示を見た。ここは岡倉天心生誕の地でもある。

 地下の会場をうまく使ってはいるが昨年BankARTで行われた個展の一部を再構成したような感じだった。作品としては悪くないと思うので、昨年の個展を見ていない人は見たらいい。 

 

 

 

 へ続く。