④の続き。
目次
1.モエレ沼公園ガラスのピラミッドへ
2.ガラスのピラミッド二階
3.ガラスのピラミッドその他
4.モエレ山へ
8月18日②
1.モエレ沼公園ガラスのピラミッドへ
モエレ沼公園での展示は「RE/PLAY/SCAPE」というタイトルだ。
この公園ができるまでに次のような経緯があった。札幌市が提示した作品設置の候補地の中で、ゴミの埋め立て場所だったモエレ沼に特に関心を示したイサム・ノグチは「人間が傷つけた土地をアートで再生する。それは僕の仕事です」と語り、周辺の環境や景観との調和をはかりながら、ダイナミックな地形造成を行うマスタープランを完成させ急逝する。のちにイサム・ノグチ財団の監修のもと完成したここはイサム・ノグチの遺作であるといえる(モエレ沼公園完成のいきさつ→イサム・ノグチ | モエレ沼公園-イサム・ノグチ設計)。
またSIAF2017においては「はじまりの地」として大友さんが作品を対峙させている。芸術祭全体の意図を考える上で重要だろう。
展示場所であるガラスのピラミッドは、1階は入場無料。2階、3階は有料だがパスポートがあれば入れる。
1階では大友良英+青山泰知+伊藤隆之による「(with)without records」が展開されている。様々な色や形のレコードプレイヤーがあちこちで様々な音をたてている。市民がワークショップで加工した中古のレコードプレイヤーを作品として配置しプログラミングしたのだという。
見上げると、黄色い巨大な風船が上の階から頭をもたげるような風に垂れ下がってきている。これは松井紫朗による「climbingtime/fallingtime」という作品。このような大きなオブジェはもっと圧迫感がありそうなものだが、色のせいか、それとも形のせいか、あまり感じない。2、3階ではどうなっているのかを楽しみに、スタッフの方にパスポートを見せ階段を上がる。
順路がけっこう複雑だ。上の階でも作品が展開されている。
2.ガラスのピラミッド二階
2階では展示室に入る前に二枚の写真があった。特に解説はなかったが、おそらく埋め立て地だった時の写真と整備されている途中か整備した後のモエレ沼公園の写真であろう。カーテンの向こうには伊藤隆介作品「層序学」と「メカニカル・モンスターズ」、ナムジュンパイク「K-567」があった。
層序学とは、「地層の層序・分布・岩質・含有化石などを研究して地層を区分し、さらに他地域との対比を行い、地球の歴史、特に時間的な前後関係を明らかにする地質学の一分野」だそうだ(引用:層序学(ソウジョガク)とは - コトバンク)。三角形の部屋の三面の壁にそれぞれ映像が投影されており、部屋の中央には三本、地層を模型にしたらしきものがある。これは会場にあった解説によれば「モエレの地下に眠る、縄文時代から現代に至るまで蓄積された廃棄物の精巧なミニチュア」である。それを小型カメラがリアルタイムで上下に撮影し、その映像が周囲の壁に投影されているというわけだ。解説には「現実に起きた(ている)ことを虚構の世界を通して提示することで、私たちがいま見ているものとは何か、その固定概念を解体し、自覚させていきます」とあった。これは「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」シリーズに共通する特徴とも言えるだろう。
同じ部屋の片隅にあるナムジュン・パイク「K-567」は、世界で初めて交通事故に遭ったロボット「K-456」の娘である。この「ガラクタからできているロボット」は、人間の世話を要求する。「人間の役に立つために生まれたはずが、やがては仕事を奪っていく―通常のロボットに対して感じるそこはかとない恐怖を、パイクの人間味あふれるロボットが無効にしていく」のだと解説にはある。
(「メカニカル・モンスターズ」)
また、部屋の中では「メカニカル・モンスターズ」が動き回っていた。これはルンバ(円形の自動掃除機)の上に擬人化された狸の剥製が乗ったものだ。帽子をかぶってゴルフクラブを持ったり手拭いを被って三味線を持ったりしていて、しかも動くのだから、大変かわいらしい(これほど屈辱的な姿の剥製もないが・・・)。他の来場者の目もかなり引いていたようだ。これはパイクの「K-567」へのオマージュであり、剥製がロボットとして生まれ変わったのだという。解説には「役に立つロボットである自動掃除機と合体してサイボーグ化した狸が、思惑とは別に掃除をする姿」ともある。
部屋を出たところにも実は続きがあって、モニターを見ているように置かれた狸の剥製がある、モニターに映るアニメはもちろん?フライシャースタジオによるスーパーマンシリーズの「メカニカル・モンスターズ」だ。このアニメに登場するロボットは「天空の城ラピュタ」に登場するロボット兵の元ネタとして有名である。このアニメ作品は美女をさらった強盗ロボットをスーパーマンがやっつけるというものだ。まさに機械に対して人間が持つ恐怖がそのまま表れている。狸はアニメを見て勉強しロボットに化けたのだろうか。
擬人化された狸を見て思い出すのは高畑勲監督作品「平成狸合戦ぽんぽこ」である。多摩ニュータウンの開発により森を追われた狸たちが「化学(ばけがく)」によって人間に対し様々な抵抗を試みるが、ノリの良さ、サービス精神を出し過ぎてたびたび失敗し、やがて敗れ去る物語である。狸たちは工事で木々が取り払われ土がむき出しになった丘を「のっぺら丘」と呼ぶが、それもつかの間、人間は一瞬にして閑静な住宅街へ変貌させてしまうのだ。この部屋に入る前にみた写真は「のっぺら丘」とどこかで通じていないだろうか。
一部ではガセだとも言われているが、このようなニュースもあった。
終わりの始まり…? 独自言語で話しはじめた人工知能、Facebookが強制終了させる | ギズモード・ジャパン
これが本当かウソかは別にしても、近年では人間がロボットやその延長線上にあるAIに対して抱く恐怖が増しているとは言えそうだ。もはやAIの発達は人間の想定の及ぶところは飛び越しているのかもしれない。
伊藤作品「メカニカル・モンスターズ」は、アニメにあるようなごつごつした無機質なロボットではなく、掃除によって人間の仕事を奪う上にかわいらしさまで兼ね備えている。
そのことを考えるとこれは「サイボーグ化した狸」ではなく、「狸化したロボット」ではないのか。剥製にされ衣装をまとわされたグロテスクな、しかし愛嬌のある狸の剥製を隠れ蓑に進化したロボットの姿ではないのか。もし狸がアニメを見てロボットに化けたのであれば滑稽である。なぜならロボットはいずれスーパーマンによってやっつけられるのがお決まりだからだ。
アニメの中の勝者であるスーパーマンに重なるのは人間ではない。もはや人間を超え進化したロボット、AIの姿である。
この芸術祭では、モエレ沼はガラクタの再生の場として位置づけられているのだろう。しかし人間にとっての開発が狸にとっての破壊であったことを思い出すと、ゴミを埋めたてた上に公園を作るのが再生なのだろうか、という疑問を抱かずにはいられない。
「層序学」では地下を掘り返しそこに埋まっている土器や日用品、レコードを私たちに見せつけている。実際にモエレ沼公園に隣接する「さっぽろさとらんど」では縄文時代などの遺跡も発掘されていると聞く(参考:https://www.city.sapporo.jp/kankobunka/maibun/okadamajomon/documents/03_okajouhou1_gaiyouban_p1.pdf)。
貝塚は古代のゴミ捨て場であったが、現在では昔の暮らしを知る貴重な資料としての価値が見出されている。いったいガラクタとは何なのか?私たちはガラクタをどう活かしていくことができるのだろうか?
同じ階には大友良英「サウンド・オブ・ミュージック」がある。いかにもガラクタという感じの古びた扇風機や電話やテレビなどなどが積まれていて、時々動き出す。ガラクタが独りでに即興演奏しているかのようだ。 更に上の階へ。
3.ガラスのピラミッドその他
(「火星からみるための彫刻」)
三階ではイサム・ノグチの写真「火星からみるための彫刻」がまず目にはいる。「地球を彫刻する」というアイディアのプランのうちの一つで、人間が滅びた後、地球上にかつて人間がいたということを示す記念碑として構想されたのだという。モエレ沼公園はこの構想に最も近いとも。
ARTSAT×SIAFLabによる「宇宙から見える彫刻、宇宙から聞こえる即興演奏」は、世界初の芸術衛星を打ち上げたARTSATとのコラボレーションによる作品で、モエレ沼から様々な情報を記録するための成層圏気球を打ち上げ、そこで取得したデータをもとにした展示物や実機を展示。壁には「モエレ沼公園時空年表」があり、様々な出来事が宇宙空間の距離によってマッピングされている。ここへきて一気に目の覚めるようなスケールの大きな話になった。それはモエレ沼自体がすでに大きな構想をもったものだからこそできることでもある。
順路では階段を上がってガラスのピラミッドの最上階まで上がることができる。ここに来たのは初めて。気持ちのいい夕方の日差しだった。
最後に一階では「全知性のための彫刻」を展示。イサム・ノグチの作品を受け、「モエレ沼公園を地球外生命体が発見したら」という仮説から電磁波を用いて実際に宇宙とメッセージをやり取りする作品。このメッセージを音や光に置き換えたインスタレーションだった。
(隠れキャラ)
4.モエレ山へ
ガラスのピラミッドを出て、モエレ山へのぼる。
天気が良く、風が少し強かった。駆け足で汗をかきつつ上る。頂上は平らになっていて座って景色を眺めたり、マットを広げて何か食べたり、みんな思い思いに過ごしていた。ここから札幌を眺めて、かつて円山から札幌を眺め街区の計画を練った島義勇よろしく、SIAFについて考えてみるのも悪くない。近くで誰かが吹いたシャボン玉が風にのってあたりに舞った。「長征」を背景にみるシャボン玉はあまりにロマンチックな夢のような景色だった。
「長征」をまた斜面を下りながら見た。自転車を斜面に設置している。山裾に等間隔で生えている木もこれらの自転車と同じように誰かによって設置されたものである点で近い存在だなと感じた。
園内を歩いて西口まで戻り、地下鉄北34条駅へまたバスで戻り、南北線の北12条駅で降り、大学構内を突っ切り、北海道大学総合博物館へ。一階の一室では吉増剛造『火ノ刺繍ー「石狩シーツの先へ」』が開催されている。
⑥へ続く。