こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

十勝日記② 十弗(とおふつ)より

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 十勝へ展示のため出かけたので、その備忘録を引き続き書いておく。十勝日記① 帯広まで - こたつ島ブログ の続き。
 

 

 

 
 8月10日 
 

 

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 朝は7時過ぎに出発。本当に人が少ない。JRで帯広駅から池田駅へ。7時47分発の電車。ワンマン運転で、古いタイプの車両がふたつ。岩見沢の大学に通っていた時も朝早くや夜遅くだと時々このタイプの電車だった(車両はもっと多かったが)。向かい合う青いシートに天井の扇風機、木製の窓枠。どれもを懐かしく思いながら乗車。

 

 

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 天気は曇り。車内は全然混んでいない。運動部らしい学生がちらほら乗っている。窓の外はやや単調な農村風景。とうきび畑やひまわりが並んで咲く景色などを見た。十勝川を越え、8時18分頃池田に到着。運動部員たちと一緒に下車。駅前は誰もおらず静かだった。

 

 

 
 迎えに来てもらっていたので車でギャラリーへ。30分ほどして到着。

 

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 あたりは一面が緑だった。とうきび畑や芋畑ばかりで時たまサイロが立っているような景色の中に、今回展示するギャラリースペースであるArtLabo北舟はあった。ギャラリーといっても見た目はかわいらしい赤い屋根が目立つ、北海道によくあるタイプの農家の母屋だ。私の親戚の農家もかつてはこのような間取りの家だったのを思い出した。お茶をいただき一息ついてから展示に取り掛かる。

 
 壁を塗ったり床の畳を取り除いたりしているが、とくにリフォームされているわけではなくほぼそのまま。築五十数年、使われなくなってからは十数年経っているという。思ったより埃が溜まっていて正直驚いた。一見ただのボロ家かと思われたが、建物自体はさほど傷んでいないようだ。家の内外の凝った装飾を見るにこだわって建てられたのだとわかってきた。今は汚れているが磨けば光るのだと思うと、掃除にもやる気が出た。

 

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 私は床の間周辺の廊下や壁を使って展示した。思ったよりも場所が作品に合っていて、「元からここにあったみたい」と言う人もいた。

 
 この日で作品の設置はほぼ完了し、掃除を残すのみとなった。翌日の13時からトークイベントが予定されていたので、それまでに会場をできるだけきれいにするのが私の役目だ。

 

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 その日の晩は中華料理屋に連れて行ってもらった。中華ちらしという帯広のご当地料理があるらしい。少し味見させてもらった。ちらしと言っても酢飯ではなく、普通の白米にきくらげなどの入ったあんかけの中華風の具が載っているものだ。
 帰りに浦幌町の留真(るしん)温泉に行くと人馴れしているらしい狐がいた(※もちろん触ってはいけません)。温泉からあがってもまだウロウロしている。観光客か誰か餌付けでもしているのかもしれない。ここでは以前アーティストインレジデンス事業が行われたことがあったらしく、温泉の裏手にはマティアス・メナーというドイツの作家によるカラマツ製オブジェ「Elevation」があった。浦幌にも炭鉱があったことを知った。
 
 8月11日

 

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 朝から蜘蛛の巣を払ったり、埃を拭いたりとひたすら掃除。午前中いっぱいは作業できるかと思いきや、11時ころからお客さんが来始めた。あわてて応対。その後は夕方までずっとお客さんの途切れることはなかった。喜ばしいことだ。
 13時からのトークは来場者よりも喋る側の方が多いんじゃないかと思っていたが、そんなことはなく、今展企画の白濱さん、作家の篠原さんと私の3人が喋るのを、他に5、6人は聴いていてくださった。トークは私と篠原さんとの絵画作品としての共通点、相違点をめぐっての内容だったと思う。友人と作品の話をすることはよくあるが、このように人前で作品について話すことは少ないからよい経験だった。この日の来場者は20人以上だったと後から聞いた。ものすごい田舎にあるギャラリーにしては大健闘だったと思う。

 

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 一日目の展示が終わったあと、前祝として帯広へ。ちょうど夏祭りの時期で、提灯の並んで光る飲み屋街は賑わっていた。数日前の帯広駅前とはまったく別の街みたいだった。混んでいるかと思われたが、運よくおいしい地元野菜を食べられるお店にはいることができて満足。
 

 

 


 8月12日

 

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 早起きして周囲を歩いてみた。気温14度。これでも8月である。涼しいどころか肌寒い。朝露で靴を濡らしながら歩く。畑に薬を撒く車がたてる静かな音だけが聞こえてくる。

 

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 朝ごはんのあと、白濱さんに帯広周辺の史跡を案内していただく。まずは豊頃町の大津稲荷神社。大津には十勝発祥の地の碑があり、この辺りでは最も古い和人の集落だ。この神社も由緒正しく、河鍋暁斎作の絵馬がある(絵馬カムイノミの図 文化遺産オンライン)のだが、非公開だ(電話で見せてもらえるよう交渉したがけんもほろろだった)。以前この絵馬はテレビ番組「開運なんでも鑑定団」に登場した(河鍋暁斎の絵馬|開運!なんでも鑑定団|テレビ東京)。神社の運営のため売却するかもしれないから鑑定に出したとのことで、苦しい心中も想像できるが、罰当たりな気もする。北海道指定有形文化財でもあるが、そんな作品を鑑定に出していいのだろうか?。鑑定結果は意外と安くてそれにも驚く。

 

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 次に大樹町の晩成社跡地へ。

 

 (に続く)