こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

アイヌ民族と「アイヌ絵」について知りたい方への個人的ブックガイド

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(小玉貞良「蝦夷絵」 市立函館博物館所蔵)

  

 

 

 以前、東京の中野で開催されている「土曜会」というラフなアートの勉強会に参加したことがあった。「アイヌ絵」について知っていることを30~40分ほど喋ったのだが、これほど大変だとは思わなかった。自分でわかっているつもりのことを改めて整理して話そうとすると復習の必要もあり、かなり準備に手間取った。情けないことに開催日の数日前に風邪を引いてしまい、「寝込んでいた時間をプレゼンのスライドの内容を整理したり詳しくできていれば、もう少しマシなプレゼンになったのに・・・」と、少し悔しい気持ちでいる。アイヌアイヌ絵について、少しでも興味を持つ方が増えれば幸いなのだが。

 

 プレゼン後におすすめの本を訊かれたり、自分でもおすすめの本を紹介しようと思っていながら時間が足りなかったので、ここに書いておく。

 僕が読んだ本の数などタカが知れているので、先輩諸氏にもっといい本があればぜひご教示願いたい。

 

 まず、アイヌの世界を旅する (太陽の地図帖 28) 」(太陽の地図帖編集部 、平凡社は、アイヌ民族について知りたい人が最初に読むのにはとても良い。手軽でわかりやすい。美しい写真やイラストを眺めていいるだけで楽しい一冊。旅行ガイド的な情報も豊富なので、北海道旅行の前に買うのがおすすめ。ただし観光情報の一部はすでに古くなっているものもあるかもしれないので注意。

 アイヌの世界を旅する」は文章は少なめで、あくまで概要を押さえるのに適している本だと思われる。物質文化に興味をもったらちょっと古いけど詳細なアイヌ文化誌ノート(歴史文化ライブラリー) 」(佐々木利和 著 、吉川弘文館を読むとか、物語に興味を持ったら「カムイ・ユーカラ平凡社ライブラリー)」(山本多助 著、平凡社アイヌの昔話ーひとつぶのサッチポロ(平凡社ライブラリー)」(萱野茂 著、平凡社を読むといい。

 アイヌの歴史を押さえるのであればアイヌ民族の軌跡(日本史リブレット)」(浪川健治著、山川出版社も、少し古いがまとまっていてよい。

 

 漫画だとゴールデンカムイが流行りだが、変態(笑)が嫌いな方には「ハルコロ」(石坂啓 著、潮出版社を勧めたい。アイヌをモチーフにして描かれた数少ないマトモな漫画だ。ちょっと古い本なので風俗描写が適切かわからないが、良質の少女漫画を楽しみながらアイヌの世界観に触れることができる。

 

 萱野茂さんの著作はたくさんあって、とても読み切れていない。だが、自伝アイヌの碑」 (萱野茂 著、朝日新聞社は、やはり外せない。二風谷でアイヌ語の中で成長し、若いころはアイヌに関わることを避けていた萱野さんがあるきっかけで民具や民話の収集を行うようになり、それは資料館へ結実していく。読み易い。

 

 また、今日アイヌのことを知る上で必読なのがアイヌ民族否定論に抗する」(岡和田晃、マーク・ウィンチェスター 編、河出書房新社だ。これは昨今のヘイトスピーチに対してカウンターとして出版された。実に様々な角度から批判が展開されている。これほど多様な反論を目にすれば、小林よしのりネトウヨ議員らの発言には全く根拠がないことが誰でもわかるはずだ。民族(エスニシティ)についての理解を深めることもできる一冊。

 

 また、私のように表現に関わる人間に是非読んで欲しいのがアイヌ肖像権裁判・全記録 (PQブックス)」 (現代企画室編集部、現代企画室)だ。いわゆる「アイヌ民族肖像権裁判」の証人証言や被告人尋問、裁判をめぐる言説を収録している。この裁判は、肖像権の侵害にとどまらず、学者側のアイヌに関する記述の杜撰な実態や、学問の自由を盾にした根深い人権侵害と差別を明らかにしたものだった。学者を表現者と置き換えて読めば、他者を表現することについて考える本としても読める。はじめ原告は無断で写真を使用されたのみならず「滅びゆく~」というレッテルを貼られて本に掲載されたことで、民族としての誇りを深く傷つけられたことから謝罪を求めたのだった。学者を表現者と置き換えて読めば、他者を表現することについて考える本としても読めるのだ。

 

 その他、「新・先住民族の近代史」(上村英明 著、法律文化社にも学ぶところが大きかった。10年ほどを経て出た改訂版だが内容は全く古びず、今こそ読まれるべき本といえる。いくつかのトピック(オリンピックや核開発など)にわけて、近代以降のそれらが先住民族にどのような影響を及ぼしたのかについて書かれている。アイヌに関する記述も多い。琉球処分についても。


 アイヌ語由来の地名についても興味深い研究がたくさんあり、私はまだまだ不勉強で何もわからないが、たまたま手に取ったアイヌ語地名を歩く」(山田秀三 著、北海道新聞社)は、図入りで読み易かったので紹介しておく。新聞の連載を基にしており、見開きで一つのまとまった内容なので手軽だ。知里真志保との交流など、時々挟まれるエピソードも楽しい。入門には相応しかろう。

 

 アイヌ絵については出版されている本は多くないのだが、アイヌ絵巻探訪ー歴史ドラマの謎を解く」(五十嵐聡美 著、北海道新聞社)は、ほとんど唯一の入門書といっていいかと思う。新書版の割には図版も多く、内容も充実していて小玉貞良について特に詳しい。なにより読み易い。文章の品位を落としかねないくらいだ。個人的にはもう少し堅苦しくてもいいのにと思う。だれにでも勧められる。ほかに「『アイヌ風俗画』の研究」(新明 英仁 著、中西出版)は、カラー図版が豊富で画集のよう。内容も詳細で専門的。たしか博士論文を下敷きにしているはず。買うには高いので、図書館などでまずはこの本を見て、視覚的にアイヌ絵を知るのもいいかもしれない。

 

 展覧会図録だと、夷酋列像 蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」(北海道博物館 編)がおすすめ。アイヌアイヌ絵に興味をもつきっかけが夷酋列像だったという人って一定数いると思うのだが、私がまさにそうである(夷酋列像アイヌ絵なのかどうか、という疑問は置いておく)。これを読んでおけば明日からあなたも「夷酋列像」博士だ!夷酋列像」の拡大画像がちょっと粗いのが玉に瑕だが、その他にはほとんど言うことなし。様々な角度から考察されていて面白い。

 他に、アイヌ文様の美 線のいのち、息づくかたち」(北海道立近代美術館 編)もよい。写真が豊富で、まさにアイヌ文様の美を堪能することができる一冊。古い本だが「描かれた北海道 18・19世紀の絵画が伝えた北のイメージ」(北海道開拓記念館 編)は、「蝦夷地」や「北海道」のイメージがどう形成されていったのか考えるのに必須の一冊。

 

また思いついたら追記していきたい。

 

 

 

(終)