こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

札幌国際芸術祭2017(SIAF2017)見聞④

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 の続き。個人的には今回のSIAFのハイライトの日。予定が途中で変わったりして慌ただしく盛りだくさんな一日だった。

 展示のネタバレを含むので以下閲覧注意。

 

 目次

 1.札幌市立大「そよぎ またはエコー」

 2.芸術の森美術館

 3.野外美術館

 4.工芸館

 5.モエレ沼

 

 

 

2017.8.18.

 

 

 

 1.札幌市立大「そよぎ またはエコー」

 

 朝から札幌市立大会場と芸術の森会場へ。
 9時半頃、地下鉄東西線真駒内駅でバスを待っていたら、SIAFラッピングのバスが来た。よし来た!これに乗ればいいのか、と思ったが、よく見ると全く違う行き先だ。紛らわしい。結局正しいのは普通のラッピングのバスだった。芸術の森行きのバスが来る乗り場は決まっているので、そこで待っていればまず間違いない。

 

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 札幌市立大前の停留所で下車、毛利悠子作品「そよぎ またはエコー」から見に行く。キャンパス内に来たのは初めて。校舎の設計は初代校長である建築家・清家清による。毛利さんは前回のSIAF2014にも参加していて、清華亭というところでの展示は面白かった。作品が楽しみでつい小走りになってしまう。

 

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 バスが来た道路からまっすぐ校舎のある方に行くと建物の前に看板があり、会場はまだ先とある。道は蛇行しており先が見えない。ほとんど森の中を歩いているようで本当に会場に着くのか不安になった。突き当たった丁字路を左に行くと校舎への入口がある。その先へエレベーターで上がると会場だ。

 

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 (分かりにくいが、この看板の右手奥に入り口がある。手前の扉ではない)

 

 長い廊下(「スカイウェイ」というらしい)の奥まで点々とオブジェが設置してある。会場で配布されている紙には作品タイトルや簡単な制作の経緯と砂澤ビッキの詩が書いてある。この詩の朗読が会場で流れていた。女性の声でしかも英語だ。なぜこうしたのだろう。砂澤ビッキ本人による朗読の音声があるなら聴いてみたいものだが、そうではなくても男性の日本語だとダメなのだろうか。英語の音の響きがいいのか?海外での展示を見越しているのか?会場では朗読の声と呼応するように自動演奏のピアノの音や鈴の音などがあちらこちらからする。他に白い陶器をベルのように鳴らす機械や横倒しになった街灯などもある(毛利さんのリサーチについて→毛利悠子、大きな作品への旅。札幌国際芸術祭2017参加アーティストが旅する北海道|「colocal コロカル」ローカルを学ぶ・暮らす・旅する)。

 

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 配布物によれば、毛利さんは石狩川の河口から遡る形で音威子府まで行き、倒壊した炭鉱街の建物や変電所の碍子(がいし)、砂澤ビッキによる倒壊したトーテムポールなどを見た。今回の展示では、「朽ちながら生々しく存在するさまざまなものたちとの出会いに触発され、時間や環境によってモノが摩耗・風化していく様子」を「音の現象へと変奏」しているのだそうだ。配布物には、鑑賞者は様々な音や街路灯の明滅を感じながら、自動演奏のピアノの音や朗読される詩が“音速のゆらぎ”によって変化し、「エコーがかかったサウンドがやがてフォーカスを合わせてゆく様を感じることができるでしょう」とも書いてある。

  

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 「音速のゆらぎ」というのは具体的にどういう物理現象をさしているのか、造語なのかわからないが、この作品のキーワードなのだろう。作品は梅田さん堀尾さんの作品と近いタイプだ。ただこの場所に対して直接何かするわけではなくオブジェによって語らせようという感じである。場所に合ってはいるが、移動可能なインスタレーションだろう。音は生活音のようなものではなく、計算され調整されている印象が強い。

 配布物に書かれていることは正直よくわからない。やはり北海道のアーティストといえば砂澤ビッキの名が出るのだなと改めて思う。ビッキやその他さまざまな要素を音として体感させひとつの作品として見せようというのだろう。あちらこちらで独特な間で音が鳴るのは面白かった。
 

 

 

 2.芸術の森美術館

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 そのまま歩いて芸術の森エリアへ。看板があるのでわかりやすい。このあたりは周囲にクマ除けの電気柵がめぐらせてあるから注意。

 展示のタイトルは「NEWLIFE:リプレイのない展覧会」。芸術の森美術館、工芸館、有島武郎旧邸、野外美術館でそれぞれ作品が展示されている。

 

 

 

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 まず向かった芸術の森美術館で受付を済ます。中庭には、鈴木昭男の「きいてる」がある。「きいてる」は「木・居てる」の意味か。切り株のような不思議な丸いコンクリート製の台を設置し、鑑賞者はその上に乗って音を聴くというもの。ここで音を聴くエクササイズを行い、野外美術館の「点音(おとだて)」が本番ということらしい。

 
 美術館の展示室内はクリスチャン・マークレーの個展。写真撮影禁止だった。大友さんが衝撃を受けたという初期の作品「カバーのないレコード」から始まり、映像作品がほとんど。パソコンや携帯電話がリサイクルされる過程を撮った映像を編集しひとつの曲のようにした「LaptopPlayers(Duet)」などは映画ダンサーインザダークの挿入歌Cvaldaのようで面白い。他にも捨てられたチューインガムやタバコの吸い殻をアニメにした作品などがあり、ガラクタがまさに作品として再生されていた。暗い中に余裕をもって映像が展示されている様は、間延び感もなくはないが海外の現代美術の展示のようでゆとりがあり悪くなかった。

 
 美術館内の展示室はもうひとつあり、入り口のすぐ右手の部屋では刀根康尚の「Il Pluet(雨が降る)」を展示。スピーカーが着いた棒を林のように展示室内に立て、音の雨を降らせようという試み。アポリネールの詩を題材にしている。
 

 

 

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 野外美術館へ向かう途中に見た有島武郎旧邸は、鈴木昭男の「点音」に関するアーカイブ。建物そのものや内部の史料も大変興味深い。

 

 

 

 3.野外美術館

 

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 野外美術館は国内外の彫刻70作品以上が点在しており、SIAFがなくてもおすすめのアートスポットである。特にダニ・カラヴァンによる「隠された庭への道」は300メールに渡って展開されており必見だ。また北欧以外ではまとめてみることのできないグスタフ・ヴィゲーランの作品5点は貴重である。森の中にも彫刻がたくさんあるので、虫よけスプレーがあってもいいかもしれない。

 

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 ここでは「点音」が10か所に展開されている。やはり砂澤ビッキの「四つの風」の前にも音を聴くポイントがあった。木のざわめく音や虫の声が聞こえる。

 彫刻が設置されているなど周囲の環境によって聴こえてくる音が違うことは、このように敢えて音を聴く機会がなければ気がつけないことだ。だが、なかなか普段聴いていない音を聴くのは難しい。

 

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 藤田陽介による「cell」は下川昭宜の彫刻「夏引」の奥にある。アメリカミズアブという生物の出す音を「爆音で鳴らそうとする試み」である。羽音のような音が聞こえた。作品近くにステイトメントが入った箱がある。そこには「アブの幼虫の生死の循環の営みを可聴化させた」とある。可聴化ってあまり聞きなれない言葉だ。美術はあまりに「可視化」する作品が多すぎるのだとふと思った。

 

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 このような作品は時間を贅沢に使って鑑賞するにかぎる。私は音を聴くには時間に追われ過ぎていた。反省。

 

 

 4.工芸館

 

 

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 工芸館ではEYヨの「ドッカイドー ・海・」というインスタレーションを体感できる。10時から1時間おきに公開しているので、他の展示を見てうまく時間を調節するといい。
 入り口では白いスリッパを履かされる。会場は完全に真っ暗で、最初は何も見えない。スポンジのような素材でできた床はところどころに起伏があるので、つまずいて驚いたりしながら歩き回った。次第に目が慣れてきて、暗闇に小さい光の点が無数に穿たれていることが分かってくる。落書きのような抽象的な模様がたくさん描かれている。会場はかなり奥行きがあり、寝転んだりもできる。気が付くとスリッパも光っていた。他の来場者が入ってくるとスリッパが光って動くのでわかるのだ。シンプルで子供だましみたいなものだが、けっこう楽しんでしまってくやしい。
 

 

 5.モエレ沼

 

  13時ころバスで真駒内駅へ向かう。この日は梅田哲也によるパフォーマンス「わからないものたち その2」が行われる予定だったのだ。ふとメールをみると・・・。

 

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 なんと天候不良で中止だった。その代りに金市館で21時からパフォーマンスをやるとのこと。それまで時間に余裕ができた。予定を変更してモエレ沼公園の会場へに行くことにした。

 

 

 

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 札幌市営地下鉄真駒内駅から南北線でまっすぐ北34条駅へ。30分かからないくらいで着く。寂れた駅だった。ベンチにはお年寄りが多かった。ここからバスに乗る。また30分くらいかかる。最初は北〇条東〇丁目という停留所が狂ったように続くので本当に着くのか不安になる。次第に住宅街を抜け、丘珠方面へ。玉ねぎ畑?が目につくようになる。15時前くらいにモエレ沼公園西口へ無事到着。だが、展示物のあるガラスのピラミッドまではここから公園内を15分以上歩かなければならない。実はガラスのピラミッドへは東口からの方が近い。だが散歩も悪くない。

 

 

 

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  橋を越え、突き当りを左へ。プレイマウンテンの麓の大きなオブジェが見えてきたら右へ。

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 道なりに林を抜けると、右手にモエレ山が見えてくる。ここには廃自転車を使った伊藤隆介作品「長征―すべての山に登れ」がある。斜面で作品が展開されているが、後で見ることにしてまっすぐすすむ。

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 ぼーっと風景を眺めて歩いていると、山の向こうから飛行機が飛び出して頭上をまっすぐ進んでいった。丘珠空港からだろうか。

 

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 この日は家族連れや中学生くらいの来園者が多いように感じた。日向ぼっこしたりジョギングしたり過ごし方は様々だ。園内でも貸し出されている自転車で移動する人が多かったのには驚いた。ここは一大自転車エリアなのだ。それだけ園内が広いということでもある。などと思っていると左手にガラスのピラミッドが見えてくる。
 

 

 に続く。