こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

香川日記③ 瀬戸内国際芸術祭2016 大島

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 2016年ももうすぐ終わり。

 今年は本当にあちこち行きました。京都、福岡、福井、岡山にも行きました。
 夏に行った瀬戸内の島々のことも印象深いです。その中でも自分なりに特に記録として書いておきたいと思うのは大島のことです。伊豆大島ではなく瀬戸内の大島です。
 
 大島は香川県高松市庵治町に属する面積61ヘクタールの小島です。高松港の東8キロにあり、島の大部分は国立療養所大島青松園が占めています。ここは明治42年からあるハンセン病の患者を隔離し治療していた施設の一つです(もちろん療養所はここだけではなく、現在は国立の施設が全国に13か所あります)。

 治療法が確立されすべての治療が完了した現在は、入所者の方々には高齢による症状と後遺症へのケアが行われています。
 
 大島についてはこちらが簡潔で詳しいです。
 
・国立療養所大島青松園 概況 
http://www.nhds.go.jp/~osima/Seigai.html
・国立療養所大島青松園 沿革 
http://www.nhds.go.jp/~osima/Seienk.html
 
 平成8年にらい予防法が廃止されて以来、徐々に島民と島外との交流が行われ、平成22年から瀬戸内国際芸術祭の会場になったことも影響を及ぼしているようです。
 
高松市公式ホームページ 大島の振興
https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/21367.html
 
 そんな大島にほとんど予備知識もなく行ってきました。

 

 

 

8.12.

 

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 6時45分頃に起床。7時半前にホテルを出発。ことでんバス高松駅まで向かう。
 8時過ぎに高松駅到着。
 すぐに高松港の瀬戸内国際芸術祭のインフォメーションセンターに行く。ここで芸術祭期間中に一日三度出る大島行き船の整理券が配られる。会期外は第二土曜日に船があるらしい。
 整理券が配られる30分以上前に着いたのだが、すでに人が並んでいた。私の前に並んでいた人たちは「どこの島に行った」とか「何回行った」とかいう話をしていた。相当芸術祭が好きなのだろう。

 

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 大島は瀬戸内国際芸術祭の鑑賞パスポートを持っていれば鑑賞料はかからない。持っていなくても300円だ。船も整理券さえちゃんと貰えばタダで乗れる。

 無事整理券を貰い、港へ。

 

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 さほど大きくない船に乗る。けっこう揺れている。救命胴衣をつけて9時20分頃出発。
 右手に屋島のきれいな三角形を眺めつつ進む。

 

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 9時41分到着。

 まず受付を済ませ、参加証をもらう。

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 十数人ずつ二班にわかれ、瀬戸芸のボランティア団体「こえび隊」の方のガイドでいくつか島内の施設を回った後に二十分くらいの自由時間がある。なのでなかなか見る時間が少ない。芸術祭の作品としては、名古屋造形大学教授の高橋伸行さんや同大学の有志による「やさしい芸術プロジェクト」によるもの、田島征三さんによるものの他、山川冬樹さんの作品もあったらしいが見つけられなかった。

 

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 まず納骨堂へ。近くに胎児の慰霊碑もある。かつてはハンセン病患者に対し人工中絶が行われていた。

 

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 横断歩道で流れるような音楽が島のあちこちでずっと流れている。キレイに舗装された道はどこに行っても柵があり、白線が引かれている。これはいずれも目の悪い入所者さんのためのものだ。放送は決まった範囲で流しているので現在地が分かるようなっている。柵も白線もそれに頼って歩くためにある。

 

 周りには誰もいない。それどころか人の気配も生き物の気配も全くない。鳴りやまない音楽と一緒に見慣れない白線がずっと続く道を歩いていると、パラレルワールドに来てしまったかのような不思議な感じを覚える。

 

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 田島征三「青空水族館」

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 田島征三「森の小径」

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 やさしい美術プロジェクト 「つながりの家」大島資料室・北海道書庫

 

 ここは元療養施設の長屋で、生活用具を展示する大島資料室や大島の歌人の間で受け継がれてきた蔵書が置かれた北海道書庫がある。

 

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 近くの海で釣りをするのにつかった小さい漁船もインスタレーションになっている。

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  入所者の部屋の再現や、入所者の写真作品なども展示。

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 北海道書庫は島の北側にあるから北海道なのだというが、他と分断されている流刑地みたいなイメージもありそう。

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 北海道書庫のすぐ近くにあるこれは、数年前に海から引き揚げられた解剖台なのだという。入所の際は解剖承諾書を書かされ。患者が死去した際は解剖された。その手伝いや処理にも患者が関わっていた。

 

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 この穴から解剖した際に出たものが流されたのだろう。

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 最後に、「風の舞」というところに来た。ここは火葬場で、以前は入所者が火葬も行っていたという。

 鎮魂の願いと、死者の魂が風に乗って自由に解き放たれるようにという願いが込められた場所だとのことだ。

 

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 ハンセン病歌人、明石海人(1901‐1939)の碑があった。

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 観音像も立っている。この像に込められた想いというのは全く私には想像もつかない状況のものだ。大島で生き抜くということはどういうことなのか。「生涯孤島但し安心立命」って何なのか。辛いとか苦しいとか、そういう次元の話ではなかろう。

 そしてふと、今も入所者の方がおられることを思い出す。その意味でもこれは過去のことではないのだ。

 

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 集合場所に駆け足でむかう。

 

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 どこに咲いていても花はうつくしい。

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人数を確認して、島を11時10分頃出発した。

 

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 11時半頃に高松港に到着。

 

 別世界にいたような気分を味わった。高松からわずか数キロを隔てた島に広がる風景はなんとも言い表しがたいものだった。
 

 

 (終)