こたつ島ブログ

書き手 佐藤拓実(美術家)

デジタル一眼レフと名付け

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 最近デジタル一眼レフを買った。買うまでなかなか決心がつかなかった。

 私は古い小さなデジカメをもっているのだが、画質がほとんど変わらないこともあって、普段はもっぱらスマホのカメラを使っている。

 今回、図書館に行って貴重資料を出していただくことになって、携帯のカメラで撮る訳にはいかないなと思った。ずっと欲しいと思ってはいたが、そういうきっかけがあってついに買ってしまった。
 といっても中古で、一眼レフとしては高額ではないと思われる。それでも今まで使っていた小さいデジカメよりは高価だ。久方ぶりの数万円単位の買い物だった。

 私はカメラに関してはずぶの素人なので、どれがいいとかいうことは知らない。ほとんど相場など調べず、中古のカメラ屋さんに行き、「何にも分からないので」と宣言し、以前、借りて使ったデジタル一眼レフの写真を見せて、「こういうのが欲しいんですけど良いのありますか?」と訊いて、主な用途は一応伝え、あとはプロにお任せする形にした。たまたま運よくカメラ本体とレンズがあって、組み合わせてもらった。値段的にも思ったより安い。デジタル一眼レフは人気で、入荷してもすぐ売れるとのことだったので、これ幸いと即決したのだった。店主はやさしい感じの人で、最低限の操作を教えてくれ、おまけでSDカードを付けてくれたりした。名刺を私に渡しながら「何かあったらいつでも電話を」と言ってくれた。ビギナーにはこれ以上心強い言葉はない。

 

 私は注意散漫で、持っているものを落としたり歩いていて電柱にぶつかったりすることの多いたちだ。だから、カメラという精密機械を買う際には一緒に丈夫な入れ物を買うのはもはや義務だ。

 中古カメラ屋にはカメラを入れるカバンはあまりなかったので、店主の勧めに従い、ヨドバシカメラに行った。買った中古カメラがニコンだったからというわけではないが、ニコンのブースに居た店員のおねえさんに声をかけた。

 

 おねえさんはおそらく本当にカメラが好きなのであろう、そして入社して日が浅いのであろう。かなり適当な敬語で友だちに話すみたいだったが、一生懸命にかばんを選んでくれた。「このメーカーは信頼できる」とかいろいろ言いながら、片っぱしからかばんの説明をしてくれた。

 私はカメラにフィットするサイズの小さいカメラケース(カバー?)にすれば良いと思っていたのだが、「絶対付属品が増えるから大きめのを買ったほうがいい」と熱弁された。それは営業トークでもあるだろうが、趣味人の本音でもあるだろうと思い、趣味の世界の先達に敬意を表して、考えていたのより大きめのにした。一緒にカメラにフイットするカバーも買った。

 

 よく「フィギュアは一個買うと増える」というのは聞くが、カメラや付属品もついコレクションしてしまうような類のものなのだろう。

 今までいろいろなモノをコレクションしてきた。でも飽きっぽくもあるので、いくつものコレクションに手をつけてはやめた前科がある。カメラをなかなか買えなかったのは、落として壊すことを恐れたのと、中途半端にコレクションしてしまうことを恐れたからだ。

 私のコレクション癖は、モノに愛着を感じる性分のせいだと思っていた。「物持ちがいい」とたまに他人に言われることがあるのはその証左だと思っていた。

 

 モノに愛着を持つということを行動で表すとすれば、名づけるということを私はイメージする。例えば「四畳半神話大系」では主人公が愛用のママチャリに名前をつけていた。それで私も自転車に名前を付けた覚えはあるのだが、すぐに何という名を付けたのかを忘れてしまう。数多のコレクションの対象に名前を付けた覚えもない。

 

 このたびデジタル一眼レフを買ったけれども、特に名前をつけようとは思わなかった。思いつかない。ヘンな話だが、大切に使うためには名前を付けた方が良いのかもしれないと思っているくらいだ。

 私は特にモノに愛着を感じる性分でも何でもないのかもしれない。私が「物持ちが良い」のは、愛着のせいではなく、たんなる無関心の結果かもしれない。

 

(未完)